08


「間違いねぇんだな」

和真と孝太、揃って俺が黒騎のアカだと証言すれば來希は睨むような視線を二人に向けた。

そんな來希に俺は呆れたように言葉を投げる。

「ここまで来て嘘吐くわけねぇだろ。そもそもお前に嘘吐いて何になるってんだ。分かったらもう俺に構うな」

ただ全てを話していないだけで、嘘は何一つ吐いてねぇ。

「はっ、そうかよ。とりあえず納得しといてやるぜ。けど、それでお前に構う構わないは別もんだ」

ニヤリと來希は口端を吊り上げ、俺を上から下まで眺め回すと続けて言った。

「言ったろ?お前は啼かす。…ふっ、精々気をつけるんだな」

気はすんだのか、他に用事があったのか來希はそれだけ言うとリビングを出て、部屋からも出て行った。

「っはぁ〜〜。何だよアイツ」

來希が居なくなり、張り詰めていた空気が緩む。

俺はドサリとソファーに腰を落とし、大きなため息を吐いた。

「まさかこんなことになってるとはなぁ」

その隣に和真が座ってきて俺の頭をポンポンと労るように軽く二度叩く。

そこへ、所在無さげに立っていた孝太が声をかけてきた。

「あの、本当にアカ、…さんですか?」

「そう。アカは俺だよ。諸事情で髪の色とか違うけど。…あっ、そうだ。悪かったな孝太。急に呼び出したりして。でも助かった。さんきゅ」

髪の色や容姿があの時と違っても、俺がアカだと証言してくれた孝太に俺は感謝で一杯だ。

そんな気持ちが伝わる様にフワリと笑って返せば、孝太は何故か真っ赤になって慌てて首を横に振った。

「いえ、アカさんのピンチなら助けるのは当然です!」

いい奴だな、コイツ。

初めの印象から一転、俺は孝太を眺めながらしみじみと思った。

「久弥、孝太ばっかり見つめるなよ」

だがそれもすぐ、隣から伸びてきた手に遮られる。

「何言ってんだよ、ったく。誰にもバラすつもりはなかったってぇのに本当、今日は厄日だぜ…」

また頭を撫でてこようとした和真の手を煩わしげに振り払い、俺はずりずりとソファーに沈みこんだ。

「黄雷以外にも何かあったんですか?」

その様子に孝太が心配そうに聞いてくる。

「ん。まぁ、來希の奴に捕まる前は生徒会室で捕まって…っていうかその前に菊地の奴にもバレてたんだ!アイツこそ何者だよ和真!」

ガバリと勢い良く体を起こして隣の和真を見上げる。

すると和真は俺に答える前に孝太を見やり口を開いた。

「孝太。ここで見たこと、聞いたことは他言無用な。まぁ、コイツが大事なら守れるだろ?」

軽い口調とは裏腹に鋭い眼差しを向けてきた和真に、よく分からないながら孝太も真剣に頷いた。

「久弥、そう言うことで孝太にはバラすぜ。コイツは口が堅い方だし、今回の事で良く分かった。お前には仲間が一人でも多くいた方がいいってなぁ」

「ん…まぁ…」

俺一人だとどうにも上手くいかないんだよなぁ。何でだろ?

変装は完璧だったはずなのに…。

既に過去形になっている時点でダメだと俺は気付いていなかった。

そして、俺が黒騎のアカであり蒼天のヒサだと孝太に説明した。

「マジですか?…あ、でもそれならその強さも、綺麗さも頷ける」

うんうんと何だか良く分からないが、孝太はあっさりと納得する。

「でもなんでわざわざ紅蓮のアジトに…?」

「それは…」

成り行きでここへ放り込まれた話もし、俺は晴れて味方を一人ゲットすることに成功した。

「で、だ。問題はこれからどうするかだな」

話が一段落するのを待って和真が口を開く。

「何だよ?まだ何かあるのかよ」

俺はソファーに身を沈め、うんざりした眼差しで和真を見やった。

いい加減休みたい。

「山積みだろ。一先ず來希はどうにかなったけど志摩とか…菊地?アイツにも目ぇつけられたんだろ?何かあってからじゃ遅いだろ」

「…遅い?…そうだった、和真。てめぇ、何でいなかったんだよ!お陰で俺は犬に噛まれたんだぞ!」

ふと脳裏を過った、思い出したくない光景ナンバースリーには入るだろう出来事に俺は和真へと八つ当たった。

「犬に噛まれた?誰だソイツ、まさか菊地か?そうだな?」

しかし、和真は何故か俺以上に怒りを露にし唇を歪ませる。

「…久弥、志摩より先に菊地潰すか?」

その手があったか!
けど、

「そんなこと出来るのか?学園じゃ人目がありすぎるだろ」

「いや、親衛隊が動けてるのを考えるとそう難しくはないだろ」

だんだんと脱線していく会話に、孝太は思わず突っ込む。

「カズ。俺、協力者にはなるけど共犯者はちょっと遠慮させてもらうわ」

だが、それもどこか的外れな台詞だった。



[ 27 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -